<目次>

事業承継支援の実践~テレビ番組制作会社の従業員承継から、飲食店のM&Aまで~
今後の資格継続セミナーのご案内

事業承継支援の実践~テレビ番組制作会社の従業員承継から、飲食店のM&Aまで~

私が従業員承継とM&Aの支援に携わった経験から事業承継の実態を説明した。これにより、事業承継支援について理解を深める。さらに、事業承継支援への意欲を高め、事業承継の成立につなげる。

まず、事業承継の実態について考察した。年代別に見た経営者年齢の分布として、近年、経営者年齢の多い層が分散して事業承継が進んでいる可能性がある(出所:中小企業白書2023年版)。私が従業員承継の支援に携わったA社の前社長は77歳、M&Aに携わったB社の前社長は67歳だった。廃業件数が増加する中、6割以上が黒字にも関わらず廃業している。廃業理由の3割が後継者難ということだ(出所:東京商工リサーチ)。A社、B社ともに黒字だが、親族に後継者がいない状況であった。事業承継実施企業は実施していない企業と比較して企業パフォーマンスが高い傾向にある(出所:中小企業白書2023年版)。A社は事業承継実施後、売上は拡大中である。今回の事例において、A社は従業員に承継し、B社は社外の第三者(企業)へ承継した。

次に、従業員承継の実例を説明した。事業承継ガイドライン(2022年、中小企業庁)によると、従業員承継の課題として、後継者が将来経営者になることの認識が弱いという。A社では2019年に代表取締役の交代があり、2021年に前社長から現社長へ株式の譲渡があった。経営や資産の承継を段階的に実行した。また、従業員承継の課題として、親族など関係者の理解を得ることが容易ではないという。現社長は従業員の中で最も社歴が長く、業務遂行能力も秀でていた。前社長の配偶者が役員として残ることで、親族の理解を得ていた。さらに、従業員承継の課題として、株式を有償譲渡する場合の買取資金の調達が容易ではないという。前社長は現社長に株式を譲渡すると同時に、前社長は現社長と金銭消費貸借契約を結んだ。現社長は役員報酬を受け取りながら、前社長へ株式譲渡金額の返済をしている。

最後に、M&Aの実例を説明した。買い手の目的として、M&Aを企業規模拡大や事業多角化などの成長戦略の一環として捉える企業が多い(出所:中小企業白書2023年版)。私が支援した買い手企業は飲食店事業の立上げを目指していた。売り手企業の社長は高齢となり後継者も不在の状況で廃業を考えていた。売り手企業の社長は面識のある買い手企業の社長に会社売却を持ちかけた。この際、買い手企業の社長が私にM&Aの支援を持ちかけることになった。まず、M&Aにおいて想定されるメリット・デメリットを買い手企業の社長に説明した。仲介者あるいはFAの選定が必要であることを説明し、私は買い手企業の社長とFA契約を締結した。仲介者とFAの役割は異なるが、今回の案件は仲介者の方が適していたと感じた。理由は、売り手と買い手のコミュニケーションを重視することと、売り手の事業規模が小さくて単独で手数料を支払う余力が少ないからだ。事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用事業)はM&A時の専門家活用に関わる費用が補助対象経費となる。補助金の申請には、引継ぎ後の雇用維持方針や雇用創造、引継ぎ後の取引先維持方針や取引先創造について記載することになる。バリューエーションとして、売り手企業の譲渡額を時価純資産法に数年分の利益を加算することで算出した。今回の事例は売り手企業の社長と買い手企業の社長は面識があったので、マッチングという工程はなかった。複数回の交渉を通して、売り手企業と買い手企業の意向を確認し、基本合意に至った。デューデリジェンスでは、財務・法務・ビジネス・税務の実態を調査した。今回は対象事項を限定して簡単な形で行うことになった。最終契約では、弁護士が条文を一つ一つ丁寧に説明することで、双方納得して調印した。

結果として、事業承継の現場を知ることで支援手法を学んだ。支援を進める中で事業承継協会の会員に相談できた。中小M&Aガイドラインは難解だが、熟読する必要があると感じた。

【執筆者紹介】

納塚 大 氏(のうづか ひろし)
のうづか経営コンサルティング株式会社、代表取締役。
印刷機材商社、紳士服専門店で新規事業開発、法人営業に従事し、2021年独立。法人営業の経験が豊富で新規顧客の開拓から長期的な関係構築を得意とする。現在は、M&Aアドバイザーや事業承継、営業体制構築、販売促進などの経営相談をする。事業承継士、中小企業診断士。

当記事は、2023年8月29日に資格継続セミナーで講演した内容を要約して掲載しております。
当日の講義を視聴希望する方は下記よりお申し込みください。
https://www.shoukei.or.jp/onlineseminar#KOUZA
今後も資格継続セミナーを下記の通り開催致しますので、ぜひご参加ください。

今後の資格継続セミナーのご案内

資格継続セミナーは、事業承継支援者向けのスキルアップセミナーです。

※画像をクリックすると申込ページに移動します。

【2023年10月】

開催日 :2023年10月31日(火)18時30分~20時30分
講師  :宮脇 良平 氏(事業承継士・中小企業診断士・宅地建物取引士・技術経営修士)
テーマ :事業承継なんて何とかなる!?? 事業承継はいつ始め、いつ終わるのか。
内容  :私は大学卒業後、中小企業に入社しました。しかしその会社は、社長が高齢ということもあり2011年に会社は売却され売却先と統合。しかし、3年後に会社は閉鎖。当時いた社員は方針の違いから全員退職してしまいました。では、なぜこのような事態を招いたのか?どうすれば違う未来に行けたのか?引継ぎ後の継続・成長するためだけでなく、信頼関係構築に向けてどう実行するべきだったのか?という自身の経験談を踏まえお話しします。
参加費 :2,000円(税込)
事業承継士または事業承継プランナー以外は4,000円(税込)
詳細  :https://www.jigyousyoukei.co.jp/2023/06/25252/


【2023年11月・12月】
事業承継コンサルティング “超” 実践講座 2023年版
第1回 :2023年11月24日(火)18時30分~20時30分 内藤博
感情の見える化を行うツールとして応用したい「シナリオ分析」技法
第2回 :2023年11月28日(火)18:30-20:30 金子 一徳
先代を追い出した後継者が立派な経営者になったその時、まさかの大どんでん返しが!
第3回 :2023年12月12日(火)18:30-20:30 石井 照之
高齢化×属人化は危ない!?
第4回 :2023年12月26日(火)18:30-20:30 東條 裕一
後継者塾から生まれた経営者になるための言葉
参加費 :各回:18,000円(税込)、4回セット:60,000円(税込)
事業承継士または事業承継プランナー以外は各回:30,000円(税込)、4回セット:100,000円(税込)
詳細  :https://www.jigyousyoukei.co.jp/2023/09/25762/