<目次>
・親子承継から第三者承継へ 元跡取り娘が語る失敗と成功の要因
・今後の資格継続セミナーのご案内
親子承継から第三者承継へ 元跡取り娘が語る失敗と成功の要因
私は、いわゆるサラリーマン家庭に育った。家から会社が近かったこともあり、小さい頃、休日によく会社に連れて行ってもらった。設計図面台の並ぶ事務室や、溶接で火花が散る現場の光景をよく覚えている。なので、父の会社や同僚、部下の人達は、私にとっても身近な存在だった。
■思いもよらず跡取り娘に
2005年、父は64歳、定年1年前になり、突然退職し会社を立ち上げると言い出した。産業機械を設計・製造・据付する会社だ。家族は驚いたが、反対はしなかった。私は起業する父に「借金つくるな、後継者つくれ」とだけ言った。
それから10年、父は74歳になったが、後継者は決まっていなかった。将来会社をどうしたいのか問うと、「規模は小さくても、自社に試作機を置くことができれば、もっと売上が伸ばせる」と答える。“それなら、誰かが継がないといけないじゃないか。誰もやらないなら、私がチャレンジしてみるか”といった感じで、急遽跡取り娘という立場になった。
2015年8月、父の会社に入社。その後1カ月で、一番の取引先であるA社に出向した。なぜなら、私は機械製造に関わったことがなく、父の会社で製造している機械がどんなもので、その機械で何を作っているのか、どういうお客様に需要があるのかといったことが皆目わからなかったからである。また、キーマンとなるA社の次期社長とも関係を築いておきたかったからだ。9か月後、出向を終え自社に戻った。
■中小企業経営の実態と跡取り娘として奮闘
入社前に、会社の業績について父に問うと「経常利益7%」というので、あまり問題意識は感じていなかった。ところが、入社してみると、売上先の偏重、社員間の断絶、勤務管理の杜撰さ、仕事毎の利益分析不足、キャッシュ管理の甘さなど問題が山積みである。
特に問題だったのは、経営と営業の2名が結託して不正を行っていたことだ。交際費・会議費の使い込みで、ばれないことをいいことに、毎年額が増え経営を圧迫するようになっていた。薄々不正を感づいている他の社員は、やる気を失っていた。この件に関して、2か月間調査を実施し、証拠を提示して2人には退職してもらった。その後も、就業規則の改善や、売上、仕入管理の強化、原価管理の導入等を立て続けに行った。不正を暴いたところまでは社員に喜ばれたが、管理が厳しくなることに対し私への風当たりは強くなっていった。
■親子承継から第三者承継へ
経理を辞めさせてから慣れない経理や資金繰りを担当。2期の決算を終えた2019年5月、このまま新規売上がなければ半年後に資金がショートすることに気づく。借入金残高は1億2千万円余り。このままでは倒産、そして父は破産だ。父と役員2名にも現状を伝え対策を依頼し、同時に金融機関に借入を打診するも、融資は受けられなかった。
同時に、取引先であるA社にも実態を伝えた。A社には当社の機械が数多く設置されており、メンテナンスの問題もある。当社の株主でもあったので、何度も説明に伺った。そして、社員全員をA社のエンジニアリング部門として事業譲渡することになった。結果、約半年でM&Aを終えることができた。
■親子承継失敗の要因と第三者承継成功の要因
親子承継に失敗した要因は、事業承継について真剣に考え実行する時期が遅すぎたたことだ。①「いつ」完全に引き継ぐのか、②「誰に」継がせるのか、③会社の強み・将来など「何を」引き継ぐのか、④「どのように」承継していくのか、といったことをもっと早くから検討すべきだった。
反して、第三者承継が成功した要因は、業務改善の過程で①売上実績の分析、原価管理の仕組みを構築していた、②財務分析を行い、財務状況が明快だった(裏帳簿がない)、③就業規則や勤怠管理等が整理され、労務面で問題がなかった、④書類の整理も行っており法務面での問題もなかったこと等があげられる。つまりDDをしなくても良いくらいに、会社の状況が明らかになっていたからだ。
■経験から思うこと
中小企業の事業承継では、後継者は創業社長とは違った苦労を強いられる。第二創業と言ってもいい。従って、成功の大きなポイントはいかに早く計画的に事業承継に取り組めるかだ。今後も事業承継士として、後継者がスムーズに事業を引き継げるようサポートしていきたい。
【執筆者紹介】
中本美智子 氏
ミチタス株式会社(事業承継士・中小企業診断士)
経歴・実績等
大阪リコー、帝人等に勤務。29歳で環境ボランティアに参加、福祉NPOに勤務したことから大阪府吹田市の市議会議員に立候補し3期12年を務める。その後、父の経営する中小企業で跡取り娘として約5年間事業承継に奮闘するも、取引先に事業譲渡。この間、中小企業経営の厳しさに直面し、事業承継が容易ではないと感じる。この経験から中小企業経営者、後継者をサポートしている。
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