<目次>
・良書に学ぶ「組織の盛衰 ー何が企業の命運を決めるのかー」
・今後の資格継続セミナーのご案内
良書に学ぶ「組織の盛衰 ー何が企業の命運を決めるのかー」
この本は故堺屋太一氏が執筆されたもので、1993年にPHP研究所より発刊されています。
私は組織というものを学問として学んだことがなく非常に参考になりました。すでに発刊されて30年以上経過していますが、全く色褪せていません。
‘はじめに’にある「世の中は全てが組織で動いている」はインパクトのあるフレーズです。そして、「時代が継続し環境が不変なら、組織の問題は実務の範囲で処理できる。しかし、世界構造が変わり、歴史発展段階が転換しようとする今はこれまでの経験と経緯を離れた観察と思考が必要だ。その意味でも、今は組織論的考察と、それに基づく組織の見直しが避け難い時である。」とあります。事業承継もこの組織的考察が必要な時ではないでしょうか。現在の経営者及び後継者となる人達にぜひこの本をお勧めしたいと思いますし、事業承継に携わる私達も読んでおきたいと思いました。
第一章の豊臣家、帝国陸海軍、日本石炭産業の隆盛と衰退は読み物としても興味深く読めます。
第二章の「組織とは何か」からが本題となりますが、組織には「共同体」と「機能体」があるということをまず前提として謳っています。
「この二つは構造も機能も目的も違う。従って組織の管理運営に当たっては、この区別を明確に意識している必要がある。」「共同体とは、構成員の満足が目的」「機能体とは外的目的達成が目的」とされています。企業はもちろん機能体が優先ではありますが、共同体としての意味合いも十分加味しなければならないでしょう。
第三章では組織作りの要点として歴史上の人物を挙げながらトップの役割、参謀と補佐役の重要性また後継者の問題ついても言及されています。
トップの役割としては「ことば」の指揮と雰囲気の指導が大切であるとしています。「トップの言動、表現、服装、関心度などは組織全体の雰囲気に少なからぬ影響を与える。トップが陽気にはしゃいでいれば組織全体が浮き立つし、暗く沈んでいれば消極的になる。トップ自身が倹約に努めれば、組織全体も節約すべきという雰囲気になる。トップのかもしだす雰囲気が組織の中での尺度となり、それは正義感にもなり得る」としています。
次に参謀ですが、「参謀は単なるトップの相談相手ではなく、動員計画から作戦や陰謀までを企画するスタッフ」です。ドイツ参謀本部の人材適用の例を挙げていますが、その中で参謀として最も要職に付けるべき人材は「能力大にして意欲小」なる者、次は「能力・意欲共に大」なる者、第三は「能力・意欲共に小」なる者、絶対に要職に付けてならないのは「能力小にして意欲大」なる者としていたそうです。意欲を重視しがちですが、そうでは無いのが興味深いところでした。
そして補佐役ですが、補佐役とは、「隠れている小さな問題点や日常的に発生する庶務雑事を発見し、その解消に努める役」です。「常にトップと一体化」していなければいけません。
筆者は「世の組織を運営する上で、最も得難い人材は補佐役である」と言い切っています。補佐役の三条件として、「匿名の情熱」つまり「自分の功を顕示しないことへの喜び」を持てる人。「トップの基本方針の枠を超えない」人。「絶対に次期トップではあり得ない」人です。最も得難いと言い
切っている意味が分かります。参謀は表で指揮も取るが、補佐役は裏方に徹する人材ということでしょうか。
もちろん、小さな企業ではトップが参謀も、補佐役も全てこなさなくてはならないのです。トップは今どの(例えば補佐役として)立場で何を為すべきかを、こういう組織論を学習して、知識としてでも身につけておくことが大事だと思いました。
最後に後継者ですが、後継者としての生き方には3つのタイプがあるとしています。「第一は事業も人事も前トップのすべてを引き継ぎ、そっくりそのまま真似をすることに努める方法。第二は前トップの重用した老臣や重役にすべてを任せ、自分の意思を出さない方法。第三は前トップとは全く違うことをする方法」です。後継者となった時の年齢・経験等を踏まえ、前述のトップの役割を加味し、その組織に合ったスタイルを確立することが大事だと思います。
第四章では「健全な組織は生き続ける」として組織として永続させていくための注意すべきことが3点述べられています。
まず第1は「機能体の共同体化」(または「共同体の機能体化」)を注意しなければならない。
2点目として「環境への過剰反応」を戒めています。そして3点目は「成功体験への埋没」として「組織は個人よりも遥かに成功体験に溺れやすい。」と忠言しています。
第五章は組織の変革についてです。従来の社長を頂点としたピラミッド型組織と、ジャズバンド型の違いを提示し、変革の必要性を述べています。。
最後に第六章ですが、最初に「これからの組織」として5つのキーワードを列記しています。が、ここで私が強く興味を惹かれたことが2つあります。その1つが「利益質の提言」でした。これは「利益質の客観化」というものです。ただ利益を数字(量)として捉えるだけでなく、「利益質を計量化」つまり「質」を数値化することによって、「組織の運営と経営の指針に活用しようという発想」です。この利益質の要素として「①外延性②継続性③好感度」をあげています。
①外延性とは「当該利益が組織の外に伸びているか。同じ組織内でタライ廻しになっていないかを計ることこと」です。ここでは逆取引「貴社のこれを買うからウチのこれを買ってくれ」式の取引利益は外延性から割引かれます。
②継続性は「当該利益が長期的に継続するものか」どうかです。「一時的な売上増、例えば営業利益の中でも原材料や商品の在庫がたまたま市場の値上がりしたことによる利益や為替変動による利益も、一時的なものとして継続性の乏しい利益に分類されなければならない。」というものです。
③好感度は「利益を上げることで好感を得られたか、反感を募らせたか」です。ここで好感度とは「誰の」好感度かが問題となります。大別すれば(a)取引相手好感度(b)従業員好感度(c)世間(社会)の好感度の3つです。
これら利益質を「利益質指数」として計量化(見える化)するわけです。
先代の現状と課題を数値で見える化することは後継者にとっては参考になると思います。
そして2つ目は「ヒューマンウェア(対人技術)」の確立です。「ヒューマンウェアは、ハードウェア、ソフトウェア」と並ぶ巨大な技術体系と彼は述べており、ここでは全てを解き明かすことは不可能としてこの本を結んでいます。そこで私なりのヒューマンウェア論で、この文を締めたいと思います。日本人は古来から当たり前のように「和」「信」「心」「謝」「礼」「徳」などを、家庭、学校、職場、といった生活の中でいつの間にか身につけてきました。コミュニケーションを敢えて意識する必要が無かったように思います。ところが効率化の推進等により実際の相対が少なくなり、コミュニケーション下手が多くなっているのではないでしょうか。彼のいうヒューマンウェアはもっと技術的なことだろう想像しますが、こればかりはできる限り、人と実際に対面して相手の顔色、目つき、声のトーンなどから、本音かどうか、心を開いているかどうか、何を必要としているか等を察知する能力を養わなければなりません。まず会う事から全てが始まります。SNSに頼っていてはヒューマンウェアは身につかないのではないでしょうか。そして、話す相手の心に響く言葉を選ぶことも大事だと思います。そのためには常日頃からか良書に親しんでおくことが必要と考えます。
冒頭に述べましたように「世の中は全てが組織で動いている」訳です。
皆様も何らかの組織に属しておられるでしょう。こうした組織論の学習は属している組織を大局的に俯瞰する目を養うことに通じ、またその中での自身の立場と役割を再認識することができるようになるのではないでしょうか。
その認識はより良いコミュニケーション作りにも役立つのではないかと思い推薦させていただきました。
【執筆者紹介】
安倍章夫氏
今後の資格継続セミナーのご案内
資格継続セミナーは、事業承継支援者向けのスキルアップセミナーです。
※画像をクリックすると申込ページに移動します。
【2024年11月】
開催日 :2024年11月26日(火)18時30分~20時30分
講師 :石神 達也 氏 株式会社バトンズ パートナーサクセスG マネージャー
テーマ :士業とスモールM&A の関わり方 と士業の成功事例について
内容 :M&A プラットフォームを上手く活用し、士業の皆様が、どのようにM&A と関わっておられるのか、その成功事例をご紹介します。後継者不在の企業が多いことをご存じの方は多いと思います。一方では、どのような支援をしているのか?イメージを持っていない方が大半ではないでしょうか。バトンズには、未経験でM&A 支援をスタートされる士業の方が多数おります。まずは、皆様の本業に近い領域でM&A に携われる方、その後、M&A アドバイザー業務にチャレンジするなど。未経験でも、どのようにM&A と関わり、マネタイズをしているのか徹底解説します!またそのような皆様でも、バトンズがどのようなサポートが出来るかもご紹介します。
参加費 :2,000円(税込)
事業承継士または事業承継プランナー以外は4,000円(税込)
詳細 :https://www.jigyousyoukei.co.jp/2024/07/29208/
【2024年12月】
開催日 :2024年12月17日(火)18時30分~20時30分
講師 :高橋 聡 氏(事業承継士・公認会計士・税理士・中小企業診断士・社会保険労務士)
テーマ :事業承継に使おう! ストック・オプションの基本とその活用方法
内容 :従来、ストック・オプションは、上場企業や上場準備企業向けの制度と認識されていました。これは、本来、非上場企業おいても、ストック・オプションを活用できる場面があるにも関わらず、「税制適格ストック・オプション」の要件の1つである「株式保管委託要件」を非上場企業では満たすことが非常に困難であることが要因でした。しかし、令和6年度税制改正により、この要件が緩和され、非上場企業においてもストック・オプションを活用できる場面が大幅に広がりました。この講義では、ストック・オプションをめぐる法務・税務の基本知識から実際の活用方法まで、事業承継士としての実践的スキルのアップに不可欠なノウハウを身に付けることを目指します。
参加費 :2,000円(税込)
事業承継士または事業承継プランナー以外は4,000円(税込)
詳細 :https://www.jigyousyoukei.co.jp/2024/11/29220/