【M&A支援の中で自分の立ち位置を決めよう!】
『ツナグ』では支援の入り口から出口までの事業承継士・事業承継プランナーとしてのM&A支援について述べてきた。
ここでは後編として、もう一つ別の観点からアドバイスをしたい。

それは自分の立ち位置の問題だ。支援者としての立ち位置をはっきりさせることで、自社のサービスが明確化される、するとフィー体系も明確になってくるので、提示がしやすくなるのだ。

例えば以下のような立ち位置がある。

<パターン1>
仲介者となるパターン。売り手と買い手の間に立って、条件・方法・やり方などをアドバイスすることで双方にとっての落としどころを探っていくという中立的な役割。

<パターン2>
FA(ファイナンシャルアドバイザー)として売り手もしくは買い手のどちらか片方につくパターン。売り手もしくは買い手に付き添い、徹底的に自分がついた側に有利になるようなアドバイスをしていくという役割。

<パターン3>
上記のパターン1とパターン2の両方を同時に行うパターン。

<パターン4>
売り手と買い手の出逢う場を提供するプラットフォーム。主にネット上で行われるケースが多いので、個人がやることはめったにない。

<パターン5>
仲介やFAなどがきちんとついているM&Aにおいて、セカンドオピニオンとしてアドバイスするパターン。

また、M&A周辺サービス(デューデリジェンス(税務/法務/事業)、株価算定、知的資産報告書作成)のうち自分で出来る領域を開拓しておく、またはネットワークを作ることも大事だ。
言った言わないを防ぐためにも、料率体系について理解し、予め目安をお知らせしておくということも大事だ。

なお、買い手を見つけ易くするちょっとしたコツは、紹介する時に必要な情報を入手し、開示できる最大限の許可をもらっておくことだ。ノンネームシートに、会社概要/特徴/純資産/売上・経常利益/株主構成などを書く欄があるが、特定されては困るということで、あまり情報を開示しないケースもあるが、これでは買い手からすると判断基準がなく、最初の段階ではじかれてしまうリスクがある。なので、ノンネームが原則ではあるが、できれば社長から「商品名」「HP」など、場合によっては会社を特定されてしまうような内容でも担当者には口頭で情報を開示するようにアドバイスすれば、格段に買い手が現れる確率が上がることを付け加えておく。特に、売却希望価格に「応相談」と入れるのはやめるべきだ。これでは、寿司屋で「時価」と表示するようなもので、買い手の頭に判断基準の最も重要な要素がないため、興味をひかなくなってしまうことだろう。レンジでもいいので、〇〇〇〇万円~〇〇〇〇万円と示すべきだ。

そして皆さんがM&Aをビジネスとしてやる時には、どこまで無償で行うかをはっきりと線を引いておくこと、そしてどこまでやるかによって金額は変わるだろうが、紹介フィーが入る仕組みを作っておくことだ。
“M&Aは労多くして対価なし”ということもよく起きる。それを補えるだけの案件数と確度を持っていれば別だが、片手間にやるとしたら、何かしら動くことによってフィーが入る仕組みを作っておくべきだろう。

おわりに、「M&Aは万能でない」ことを強調したい。したがって、経営者に過大な期待は抱かせず、買い手が現れないことの方が圧倒的に多いという現実を伝えておこう。
そして、いったん決めたら後戻りさせずに最後までやり切るように導くことが何より大事だ。

M&Aは事業承継でうまく使えば強力なツールになり、無能な後継者に継がせて会社が潰れるよりも、会社が成長発展するという可能性を秘めている。ただし、相性が合わないと、逆に商品もブランドも人もなくなるということも同時に起きうる、ということを肝に銘じて、皆さんがM&Aに前向きに取り組むことを切に願う。

ツナグ32号巻頭記事 後編:事業承継協会理事 金子一徳