<目次>
・後継者が先代の反発を受けずにスムーズに新制度を導入する方法
・今後の資格継続セミナーのご案内
後継者が先代の反発を受けずにスムーズに新制度を導入する方法
私は後継者からの相談が非常に多いが、中でも「残業代の支払いが曖昧なので解消したい」という相談が多い。会社を継いだ途端に、社長の方針に反発した社員が未払い残業代を請求してくることもある。解消が必要な問題だ。
後継者が相談にくる場合、例えば、「変形労働時間制を導入」など何らかの案を持って来ることもある。同制度は人件費を増やさず残業代の問題を解消できる。また、現在、同制度の導入企業は約6割になっている。案自体は非常に合理的だが、制度の導入がスムーズに進むかというと、先代の社長から思わぬ反対を受けることがある。
そもそも、同制度は大きな制度変更を伴う。そのうえ、残業代の問題は単なる金銭の問題ではなく、感情も絡む問題だ。先代が若かった頃はサービス残業が普通に行われていた。経営者になってからも、時間に対して賃金が支払われるという生活をしていない。その一方、後継者は世代にもよるが、残業代は支払われる生活をしてきた。
そのような価値観の人間同士がぶつかると、大変、面倒な話になる。ましてや、聞いたこともない制度を専門家と一緒に進めようとしていると先代が知ったら、どんな案を出そうが、反対を受けるリスクが高まる。
実際、後継者に確認をすると「親父のやり方は今の時代に合ってない」などの言葉が出てくる。要するに、普段から対立していて、今回も否定される可能性があるということだ。こちら側に正義があろうと、問題が解決できなければ意味がない。
このような場合、私が後継者に提案する方法がある。まずは、否定されない制度の提案し、実績を積んだうえで、「この制度を一歩進めた、もっと良い方法がある」という流れで本命の制度の提案することだ。それが、今回の例で言えば、変形労働時間制になる。具体的に解説しよう。
休憩時間に賃金を支払っている企業
私は相談を受けたときは、まず、社員全体との契約書である就業規則を確認する。大抵、休憩について以下の定めしかない。
第〇条(始業・終業の時刻、休憩) 始業・就業時刻 9時~18時 休憩 12時~13時 |
しかし、月40時間の残業がある会社なら、1日平均2時間程度の残業になる。3~4時間の日もあるだろう。そうなると、20時(日により22時)までの残業になるが、終業時刻後の休憩について一切記載がない。
冷静に考えてみて欲しい。13時以降、休みなく働いているだろうか?そんな生活を毎日続けるのは無理な話だ。また、夕食も取らずに仕事をしていたら非効率でもある。休憩を自主的にとっているだろうが、会社はその間の賃金を支払っていることになる。しかも、休憩をとっている社員ととっていない社員との間での不公平も生じる。
この問題は簡単に改善できる。残業を行う際は、終業時刻の18時から30分休憩をとってもらえば良い。その時間に食事も終わらせてもらう。当然、その時間の賃金の支払う必要はない。これだけで、残業代の問題は緩和される。さらに言うと、この制度は、「勝手に休憩はとってはならない」というメッセージにもなる。
この方法なら、先代の反対は受けない。社員が自主的にとっていた休憩時間を明確にして、その時間の賃金を支払わないだけだからだ。また、今までの先代の考え方を否定することにもならない。
本命の制度の導入へ
この方法で残業代の問題が多少でも緩和されたら、本命の制度(変形労働時間制)の導入の提案に進む。先代に後継者から以下のように提案してもらう。
「今回の制度を一歩進めた内容で、もっと効果のある制度を導入したいのだが、どうだろうか?」
このように提案されれば、先代に反対を受けるリスクはぐっと減る。
なお、これは、余談だが、「なぜ、変形労働時間制が今回の制度を一歩進めた内容なのか」はあえて、後継者に言わない。それは、自身に気づいてもらう必要があるからだ。
【執筆者紹介】
事業承継士 小嶋 裕司 氏(こじま ゆうじ)
特定社会保険労務士・事業承継士。開業以来、就業規則に特化してきた専門家(全業務の99%超が関連業務)。得意分野は残業代の問題で、相談企業の97%で効果的な対策案の立案実績あり(お客様の評価による)。なお、クライアント企業の5割超が現在二代目社長の会社であることが大きな特徴で、社内にスムーズに新制度を導入する支援まで行っている。
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