<目次>

円滑な事業承継への道 会議ファシリテーションの極意
今後の資格継続セミナーのご案内

円滑な事業承継のために 先代の想いを言語化しよう

〇はじめに
東京商工リサーチ「中小企業の経営理念・経営戦略に関するアンケート」によると、
会社運営の根幹となる経営理念の策定・見直し時期について、「事業承継期に行った」とする回答が37.8%と1位になっている。代替わりの時期に会社経営を根幹から見直す、ということがこの統計から明らかになっている。

「先代のやり方は間違っている」
「自分たちでゼロから会社を作り直す」

事業承継を機に、後継者がこのように意気込むケースも考えられる。

「会社経営は環境適応業」という言葉があるように、時代の流れとともに変化する外部環境に合わせ、会社のあり方を変化させていくことはとても重要なことと言える。

これについての私の意見としては、すべての要素をゼロから一新するというよりは、過去の歴史や先代の功績に触れ、大切にすべき価値観を再確認した上で、新たな会社のあり方を定義していくことが重要だと考えている。

〇私の事業承継
私自身、一族が代々継いできた会社を6代目として事業承継した。と言っても、”事業内容”は引き継いではいない。先代まで営んでいた文具卸売業は、既に廃業を宣言しており、私が継ぐ前の事業内容は本社ビルを貸す不動産賃貸業になっていた。

私が継いだタイミングで事業内容を「人事コンサルティング業」へと更に変化させている。会社を継ぐ合理的な必要性はほぼ無かったが、1877年から一族が代々つないできた歴史を途絶えさせたくなかった、という感情的な理由で会社を承継した。

そんな”会社の枠”だけを継いだ私が「会社の伝統として残していけるものはないか」と考え、至ったのが、一族が代々継いできた”想い”をつなぐ、ということであった。

〇先代インタビューを実施して
会社の想いをつなぐために、先代へのインタビューを実施した。
・どんな経緯で入社したのか
・現在に至るまでの大枠の流れ
・成功体験
・失敗体験
・その時々で大切にしてきた考え方
・その時々で感じた感情
などの項目を聴き、年表に落とし込んでいった。

最終的に「共感できる想いの部分を行動指針に落とし込む」、という目的があるため、
意識的に「出来事+感情」の組み合わせでヒアリングを行っていった。

実施した結果、様々な気づきがあった。

先代の仕事ぶりについてほとんど触れたことが無かったが、好調期から衰退期、廃業を宣言するまで様々な困難に直面し、歯を食いしばりながらも前を向いて経営してきたことが分かった。

お客様とは”対等”の関係を築くべき、辛い時も明るく振る舞うこと、などは私自身も大切にしたい内容であり、今の私の行動指針である、「横から目線」「明るく楽しく面白く」という項目に反映させている。

先代の感想として、
・先代は後継者に対して「こうして欲しい」という想いを持っている
・自分が頑張ってきたことについても「認めてもらいたい」という気持ちもある
・一方で先代側から「インタビューをして欲しい」などとは絶対に言えない。
今回こういう機会を後継者側から提案してくれて本当に良かった。
というようなことがあった。

このように、インタビューの実施により、大きな信頼関係を築くことができる。
一方で、親子の関係性の悪さや、”照れくささの感情”などが邪魔をし、先代・後継者の2人で腹を割った話しをできていない事業承継はかなり多いのではと感じる。

〇事業承継士として
先代との普段の関係性の悪さ(話をしない、話すと衝突してしまうなど)から、後継者が単独で先代インタビューを行うことが難しいケースがある。

事業承継士が第三者の立場で同席し、先代の功績や想いを聴くファシリテーターとして支援することは、会社の想いをつないでいく上でとても意義のあることだと考えている。

事業継承という言葉が形あるものを継ぐ、という意味合いが強いのに対し、
事業承継という言葉は形のない”精神的なことを継ぐ”、という意味合いが強い。

事業承継士として、事業承継を機に、先代と後継者の想いをつなぎ、より一層の信頼関係を作れるような支援を心がけて行きたい。

【執筆者紹介】
岩出 優 氏(いわで ゆう)
Cocoro Managements株式会社
(事業承継士・中小企業診断士・特定社会保険労務士 ・ 企業経営カウンセラー)

経歴・実績等
「採用定着を仕組みとココロで支援する」 をコンセプトに、 中小企業の人材確保を仕組みづくりと組織風土づくりの両面から支援している。社会保険労務士資格取得後、大手印刷会社の健保組合、 社会保険労務士法人の勤務を経て、2019年に一族が繋いできた会社を事業承継。経営理念策定、組織心理学研修など、人間心理の面からの組織づ くり支援を得意としている。

当記事は、2024年5月28日に資格継続セミナーで講演した内容を要約して掲載しております。
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テーマ :親子承継から第三者承継へ 元跡取り娘が語る失敗と成功の要因
内容  :ここ数年で耳にすることが増えた行動経済学のナッジ理論。2022年末、人工知能チャットボットであるChatGPTの公開により急速に普及し、日々進化をしているという生成AI。みなさまはどれくらい2015年、父が経営する東大阪の機械製造会社に跡取り娘として入社。役員は技術者のみで経営には無頓着。資金繰りや経営の管理を一気に引き受ける。不正をしていた社員を辞めさせ、社内の仕事の流れを整理、原価管理を進めて業務改善に取り組む。これからと思った矢先、数カ月先にキャッシュが不足する事態に。会社が混乱する中、なんとか取引先にM&Aで事業譲渡し破産を免れる。
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